DACとの戯れ


Under Competition
DAC比較試聴中

 1ビットビットストリーム型 DAC7 搭載機 DP-1001 出力と DP-1001 光ディジタル出力をつなぎ込んだ20ビットDACである PCM-63P シングル使用の DAC63S-mini 自作DAC出力の聴き比べでは、同じ DP-1001 のCDトランスポートを使用し両者共オペアンプはFET入力型の OPA2604AP としているのでほぼDAC同士の比較となるのであるが、DAC7(DP-1001出力)は低域がどっしりとしていて中高域は線が太く細やかな音の粒に物足りなさを感じ、PCM-63P(DAC63S-mini自作DAC出力)では低域が心もち薄くなるものの弦や木の醸し出す響きを聴き分けられそうな程中高音域に繊細感があるという差違を感じる。

 これ程までにDACによって音が違うのかと体感し、世の中に出回っているDACの音の違いをもっと聴きたくなった。CD板上のディジタル信号をスピーカーで聴く事の出来るアナログ信号へ復調するのがDACと言えるが、この復調過程で理論上必ずついて回る不要な高調波を取り除く考え方には大別すると二種類あると見た。高域側をCD規格で定められた付近で遮断してしまう方式と、高域をCD規格通り遮断するとレコードにも劣るので何とか超高域側をCD規格より余分に補償しようとする方式である。前者はCDプレーヤが出回り始めた当初からのもので、後者はその後のレコード対CD優劣論争を経て考え出されてきたものと思われ、PIONEER のレガートリンク[11]が該当すると考えられる。これはアナログ復調時に高域遮断するフィルタのさじ加減で実現しているとも言える。

Characteristic of LEGATO
PIONEER レガートリンクDAC特性[11]

 上図に拠れば確かに超高域側が補償されているが、この補償部分は一種の折り返し雑音とも考えられ、実在する音域ではなく超高域側に雰囲気が加味される程度はないかと思えてならない。

 一方後者、超高域側をCD規格より余分に補償しようとする方式の中でも、前述のフィルタのさじ加減で高域補償するものとは異なるアプローチが見られる。それはディジタル演算処理する方式である。VICTOR の EXTENDED K2 プロセッシング[19][40]での帯域拡張や基本波と高調波成分の相関関係に注目して互いに相関関係を持った信号を瞬時に演算し、元々あったはずの高調波成分を高い周波数帯まで補間処理する KENWOOD の Supreme D.R.I.V.E. [20][39][40]が該当すると思われる。また、異色のものとして、フルーエンシ情報理論[6][16][41]に基づきチップ化された新潟精密株式会社のDACを組み込んで各社がそれぞれ開発したCDプレーヤも上げられる。

Characteristic of EXTENDED K2
VICTOR EXTENDED K2 プロセッシング帯域拡張部特性[19][40]


Characteristic of Supreme D.R.I.V.E.
KENWOOD Supreme D.R.I.V.E.補間処理特性(mp3適用例)[20][39][40]


Fluency DAC Spacification
フルーエンシDAC特性[16][41]

 フルーエンシDACの場合はディジタルからアナログへの復調時にディジタル信号段階で数値計算よろしく情報理論に基づいて演算処理するもので、帯域内情報から帯域外情報を推定する伝達関数的な考え方をしていると考える事が出来る。推定計算となるので、含まれているはずもない周波数成分をアナログ信号復調過程で勝手に生成してしまう弊害が指摘されている様である。[12][13][15][41]

Measured Fluency DAC Characteristics
フルーエンシDAC実測特性[15][41]

 この実測特性では、20kHzサイン波をディジタル信号へ変換(ADC)する時に、サンプリングの関係で最下段の様な状態となる。最下段のディジタル信号(生の信号は20kHzサイン波)をフルーエンシDACへ入力すると、20kHzのサイン波は復調されていない。(比較試験した PCM1794A では同じ入力信号でも綺麗に20kHzサイン波を復調している。)

 このフルーエンシ、単純変換DACよりもDSP(デジタルシグナルプロセッサ;デジタル信号処理)的ではないかと思えて非常に興味があり、既に新潟精密株式会社の FN-1242A というDACチップと DAC63S-mini 基板を領布しておられる方から DAC1242-1.5 と云う自作用基板[14]を入手している。しかし、小物部品を揃えるのに今ひとつ億劫になっていて中々製作開始に至っていない。

 さて、CD規格に忠実に高域側を遮断してしまう方式であるが、ディジタル化(量子化)された事によって発生する高調波歪みを低減する事を目的に様々なアプローチが試みられている様である。DENON のアルファ(AL24)プロセッシング[17][38]や VICTOR の K2 テクノロジー[19][39][40]、TECHNICS の MASH [28]、ONKYO の FPCS[29]やVLSC (Vector Linear Shaping Circuitry) [18]、KENWOOD の D.R.I.V.E. [22][39][40]、SONYのHigh Density Linear Converter システム(H.D.L.C.、カレント・パルスD/A)[33]が該当すると考えられる。

 これらはいずれも、ディジタルからアナログへの変換(DA変換)時に発生するパルス性ノイズによりマスクされやすい微小レベル領域の再現性改善を目指している。AL24やD.R.I.V.E.は微小レベル時に高ビット化する手法で微小レベル時の信号を滑らかにしている。K2やMASH、H.D.L.C.はデジタル値をパルスの密度に変換する刄ー方式と呼ばれる1ビットD/A変換を行っている。このD/A変換は量子化誤差によるノイズ成分が低周波領域ほど少なく、高調波領域ほど多くなる特性を有しているが、デジタルフィルターで可聴範囲外の高調波がカットされるため可聴範囲内、特に低周波領域でのノイズを少なくしている。K2やMASHでは4次(H.D.L.C.では45ビット)のノイズシェーパーで高調波領域を効果的に減衰している。FPCSはコンピューター画像処理での補間法として開発された高速直接補間法を、オーディオ信号用のデジタルフィルターに適用している。VLSC はDA変換によりパルス性ノイズが含まれている信号を、ベクトル発生器を用いてパルス性ノイズを含まない信号として再生成している。この方式は、フェーズロックループを一種のローパスフィルタ的に機能させていると考える事が出来る。

AL24 Processing Characteristic
AL24特性概念[17][38]


K2 Technology Characteristic
ノイズシェーピング特性概念(K2、MASH、H.D.L.C.)[20][28][33][39]


K2 Interface Description
K2 インターフェース概念[32][39][40]

 K2 テクノロジーは信号に対して前処理的な働きをする K2 インターフェース[19][39][40]と MASH 的なノイズシェーピングを行う1ビットD/A変換部との総称の様である[32]。前処理部 K2 インターフェースは、光ピックアップ出力となる揺らぎ成分の多いCD板からのオーディオディジタル信号を自前のクロックで再サンプリングして波形整形を行い、揺らぎのない綺麗なディジタル信号として次段のノイズシェーピング型の1ビットD/A変換部へ送り込んでいる。これは先達の方々がCDプレーヤを改造し、高安定水晶発振器と入れ換えて音質向上を図っている試みに共通した考え方と思われる。

 H.D.L.Cの中心をなすカレント・パルスDACはMASH方式をベースとし、電圧基準のディジタル信号を電流に置き換えて電圧ノイズへの耐性を高めたもので、更に45ビット・ノイズシェービング・デジタルフィルターやダイレクト・デジタルシンク・サーキットと呼ばれるジッター除去回路などによって構成されている。このジッター除去は K2 インターフェースと目指す所は同様と云える。

AL24 Processing Characteristic
VLSC 特性概念[18]


 国連からの地球沸騰化発言が話題となった酷暑の中、レコード再生や数十年ぶりのカセットテープ再生と併せて初期マルチビットDACの比較試聴を繰り返していたが、最終的には K2 プロセッシング 搭載機に落ち着いてしまう事が多かった。先達の方によると[38][39][40][41]、DACのビット拡張技術には「CDの16ビット情報に正弦波近似やフィルタリング処理で下位データを生成して滑らかな20ビット信号にする【美音化】タイプと、CDの16ビット量子化前の手がかりを元に補正値を生成して原音に近づける【原音追求】タイプがある」、前者は「D.R.I.V.E.」や「ALPHA」、後者は「K2 プロセッシング」や「PRO-BIT」[38][42]との解説である。折り返し雑音を付加していると考えられる「LEGATO」やフルーエンシDAC も前者に属し、ハイパーソニック効果を利用して、超音波付加により「人間が聴覚的に高忠実度っぽく感じる再生」となっているとの指摘[41]である。一方後者は「22kHzという帯域内でのデータ的な高忠実度再生」[41]を追求している。我が駄耳がDAC比較試聴で最終的に K2 プロセッシング に落ち着いてしまうのは、ここいら辺に遠因があるのかも知れない。フルーエンシDAC や PRO-BIT(YAMAHA)[38][42]も試聴せねばとの思いである。


[1]tsdoctor HOME PAGE、https://tsdoctor.web.fc2.com/dp1001.htm
[2]Philips DAC、http://www.lampizator.eu/lampizator/LINKS%20AND%20DOWNLOADS/DATAMINING/tda1547.pdf
[3]お気楽オーディオキット資料館、http://www.easyaudiokit.com/
[4]DAC63S-mini/お気楽DAC2の製作、http://yasu-audio.com/dac63s_01.html
[5]DAC(DAC63S-mini)、http://www.geocities.jp/mkttid/dac63s.html
[6]フルーエンシ情報理論、http://www.jst.go.jp/kisoken/seika/zensen/04toraichi/
[7]EMISUKEの電子工作部屋、http://www.geocities.jp/aaa84250/HAIFU_16.htm
[8]Chu Moyタイプヘッドホンアンプの製作、http://www.minor-audio.com/bibou/amp/headphone_amp2004.html
[9]Web2.0が面白いほどわかる本、小川宏・後藤康成著、中経出版、中経の文庫495
[10]Pioneer レガートリンク解説、https://jpn.pioneer/ja/carrozzeria/archives/products/highend/lineup/rs-a1x2/function_2.html
[11]レガートリンク付きCDプレーヤについての検討(その2)、https://blogs.yahoo.co.jp/kiyo19371122/29056796.html
[12]折り返し雑音とフィルタ、http://www.gem.hi-ho.ne.jp/katsu-san/audio/next_gen/alias/aliasing.html
[13]サンプリング周波数と音質、http://aok.la.coocan.jp/sample_hz.htm
[14]お手軽シリーズ1.5の巻き、http://www20.tok2.com/home/easyaudiokit/okiraku/okiraku15.html
[15]「在庫限り」の誘惑に負けるの巻き(FN1242A)、http://www20.tok2.com/home/easyaudiokit/FN1242A/FN1242A.html
[16]心理学的,及び生理学的実験による超音波音響信号の知覚に関する考察、杉本武士、筑波大学大学院博士課程システム情報工学研究科修士論文、2003
[17]AL24 Processing、https://www.denon.jp/jp/blog/3817/index.html
[18]ONKYO 技術情報VLSC、https://www.jp.onkyo.com/audiovisual/technology/
[19]ビクター K2 テクノロジー技術情報、https://www.jvcmusic.co.jp/k2technology/aboutk2/technology.html
[20]二次元アレイスピーカを使った音場の形成とそのシュミレーション、http://tamlab.yz.yamagata-u.ac.jp/STUDY/スピーカ/speaker.html
[21]「Supreme D.R.I.V.E.(仮称)」開発!、http://www.kenwood.co.jp/newsrelease/2000/press20000619.html
[22]「D.R.I.V.E. with 32fs & 22bit resolution」、http://d.hatena.ne.jp/tma1/20070105
[23]アナログーデジタル変換、橋本研也、http://www.te.chiba-u.jp/~ken/lecture/Trans-3.pdf
[24]高速化に適した周波数変調方式刄ーADC、前澤宏一、松原渉、酒向万里生、水谷孝、http://www3.u-toyama.ac.jp/maezawa/Research/IPArev2.pdf
[25]AD/DA変換器とディジタルフィルタ、山崎芳男、日本音響学会誌 46巻 3号:1990、https://www.jstage.jst.go.jp/article/jasj/46/3/46_KJ00001455904/_pdf/-char/ja
[26]デジタルとアナログの協調と共存、小林春夫、https://kobaweb.ei.st.gunma-u.ac.jp/news/pdf/koba20071016-2.pdf [27]AD/DA変換器、岩田穆、集積回路基礎 第10章、http://www.dsl.hiroshima-u.ac.jp/~iwa/text/LB10.ADC.pdf
[28]SL-P70仕様、https://audio-heritage.jp/TECHNICS/player/sl-p70.html
[29]アナログ・デジタル変換の基礎、村口正弘、マイクロ波工学2009.07.10
[30]1ビットD/A変換アレイを用いたD/A変換方式、谷泰範、信学技報、CAS94-9,VLD94-9,DSP94-31、pp.63-70
[31]ONKYO Integra C-1E解説、https://audio-heritage.jp/ONKYO/player/integrac-1ever2.html
[32]Victor XL-Z900、https://audio-heritage.jp/VICTOR/player/xl-z900.html
[33]SONY DAS-R1a、http://audio-heritage.jp/SONY-ESPRIT/etc/das-r1a.html
[34]Leica a la carte:SONY CDP-EX700、http://m3leica.blog66.fc2.com/blog-entry-556.html
[35]Sony CDP-710、https://www.hifiengine.com/manual_library/sony/cdp-710.shtml#comment-29462
[36]1ビットDACとR-2R DACの音質差 -- 名チップ PCM56、https://ameblo.jp/etsuo-okuda/entry-10479409645.html
[37]DACが16bitで何が悪い!、ステレオ時代、ネコ・パブリッシング、vol.21 pp.85-95
[38]CDの16ビットデータを20ビット化するビット拡張技術のしくみと効果[前編]、柴崎功、MJ無線と実験、誠文堂新光社、2008年8月号(第95巻 第8号 通巻1026号)、pp.84-94
[39]CDの16ビットデータを20ビット化するビット拡張技術のしくみと効果[中編]、柴崎功、MJ無線と実験、誠文堂新光社、2008年9月号(第95巻 第9号 通巻1027号)、pp.84-93
[40]CDの16ビットデータを20ビット化するビット拡張技術のしくみと効果[後編]、柴崎功、MJ無線と実験、誠文堂新光社、2008年10月号(第95巻 第10号 通巻1028号)、pp.84-92
[41]素子再生音に革命をもたらしたフルエンシーフィルター、柴崎功、MJ無線と実験、誠文堂新光社、2009年4月号(第96巻 第4号 通巻1034号)、pp.84-93
[42]ヤマハプロビット方式CDプレーヤーの詳細、柴崎功、MJ無線と実験、誠文堂新光社、1996年9月号(第83巻 第9号 通巻883号)、pp.94-101

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